全国紙2025年演劇回顧記事URL

カテゴリー: 備忘録 オン 2025年12月31日

今年の全国紙の演劇年間回顧は、各紙に特徴な出来事がありました。

朝日の本文は記者による論評ではなく、舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」で、それぞれアーティスティック・ディレクターを務めた岡田利規氏と川崎陽子氏による対談でした。2020年からネット未掲載が続いていた読売は、「戦後80年」特集の一環として、本紙掲載時とは見出しを変えて読売新聞オンラインに掲載しました。会員登録不要で全文読めます。読売はここぞという記事は全文公開することが多く、このメリハリは好感を持てます。そして日経は、演劇回顧を長らく手掛けてきた内田洋一編集委員が今年末で退職し、今後はフリーランスとして活動していくとのこと。今年の演劇回顧も担当していますが、さらに長文の個人note「2025年 演劇回顧 私たちはどこからきて、どこへいくのか」を発表しました。芸術の年間回顧記事は、突き詰めれば担当記者の主観によるもの。多様性が広がる現代、スター記者がいなくなったあと、新聞の側も新しい形式を模索しているのでしょう。

複数紙で本文に挙がったストレートプレイは、仲代達矢氏の遺作となった無名塾『胆っ玉おっ母と子供たち』(読売、日経)、「秋の隕石2025東京」でのShakespeare’s Wild Sisters Group×庭劇団ペニノ『誠實浴池 せいじつよくじょう』(読売、日経)、4演目となる新国立劇場『焼肉ドラゴン』(毎日、日経)。ピンク地底人3号氏は名取事務所『燃える花嫁』(毎日)、兵庫県立芸術文化センター『明日を落としても』(日経)の作者として紹介されました。

英国での海外展開を継続的に追っている読売は、小間井藍子記者が梅田芸術劇場『SIX』だけでなく、Vanishing Point×KAAT神奈川芸術劇場『品川猿の告白』、EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』、劇団鹿殺し「Shoulder pads」の英国公演を取り上げています。小間井記者自身は「担当記者5人が選ぶ、今年の3本」に、「心が揺さぶられ、関西演劇のパワーを感じた」と大阪国際文化芸術プロジェクト『FOLKER』を挙げ、初演をプロデュースした者としてうれしいです。

毎日の広瀬登記者はセクシュアリティに関する注目作として、アミューズ『ここが海』、serial number『YES MEANS YES』、いいへんじ『われわれなりのロマンティック』を並べました。共通点として「人間の心の奥にある非常に繊細な部分へ分け入った。その果敢な姿勢に目を見張った」としています。「管理社会の不気味な暴力性をあらわにした」として、ほろびて『ドブへ INTO THE DITCH』も。

朝日の本文が対談なので、作品の重なりは少ない印象ですが、朝日「私の3点」、読売「担当記者5人が選ぶ、今年の3本」まで含めると、KAAT神奈川芸術劇場『最後のドン・キホーテ』、二兎社『狩場の悲劇』、エーシーオー沖縄×名取事務所『カタブイ、2025』が複数で挙がりました。徳永京子氏(演劇ジャーナリスト)は優しい劇団『光、一歩手前』、滋企画『ガラスの動物園』を入れました。

帝国劇場の休館、俳優座劇場の閉館は毎日と読売が、福田善之氏の逝去は毎日と日経が記しています。戦後80年だけでなく、様々な面で大きな節目を迎えていると感じます。