この記事は2015年1月に掲載されたものです。
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A4サイズのチラシ束を観客に渡す風習が残っているのは、演劇とクラシック音楽だけ。『SPT08』を宣伝美術を考える〈課題図書〉にしたい

カテゴリー: 備忘録 オン 2015年1月17日

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SPT 08 特集 演劇のグラフィズム

演劇の宣伝にとって、ポスターやチラシは欠かせないものですが、だからといって現在のチラシ中心の宣伝方法で新たな創客につながるのか、という根源的な疑問が絶えずあります。

それを考えていくためのテキストとして、ぜひ目を通してもらいたいのが、2012年に発行された世田谷パブリックシアター『SPT08』特集「演劇のグラフィズム――最初に幕を開けるもうひとつの舞台」です。こう書くと雑誌の特集のようですが、『SPT』は一冊まるごと特集なので、単行本と同じです。

ポスター、チラシを中心としたグラフィック関係者へのインタビューで構成されていますが、その人選が素晴らしい。まず、世田谷パブリックシアター芸術監督の野村萬斎氏と、その作品を手掛けた仲條正義氏、篠山紀信氏が登場します。

  • 野村萬斎(世田谷パブリックシアター芸術監督)
  • 仲條正義(アートディレクター)
  • 篠山紀信(写真家)

次に、自ら宣伝を手掛けることで知られるスタジオジブリの鈴木敏夫氏、小劇場演劇の宣伝美術の先駆者であるケラリーノ・サンドロヴィッチ氏と、それを手掛けるリトルウイングの青山功氏が登場。

  • 鈴木敏夫(プロデューサー)
  • ケラリーノ・サンドロヴィッチ(ナイロン100℃主宰)
  • 青山功(プリンティングディレクター)

そしてポスター貼りで知られる笹目浩之氏、チラシ折り込みで知られる郡山幹生氏が登場。

  • 笹目浩之(ポスターハリス・カンパニー)
  • 郡山幹生(ネビュラエクストラサポート)

ブランディングの観点から、新国立劇場、世田谷パブリックシアターの主催作品を多く手掛け、劇場の顔ともなっているグラフィックデザイナー2氏が登場。

  • 水野学(good design company)
  • 近藤一弥(カズヤコンドウ)

ここで小劇場・コンテンポラリーダンスの主宰者11名へのアンケートが入り、最後に編集者の都築響一氏が演劇界に対して忌憚のない意見を言うというものです。

  • 都築響一(編集者)

都築氏曰く、A4サイズのチラシ束を観客に渡す風習が残っているのは、演劇とクラシック音楽だけだそうです。演劇自体の表現がどんどん変わっているのに、その宣伝方法が旧態依然というのは、私も本当に不思議な気がします。都築氏は演劇チラシをこう切り捨てています。

演劇のチラシって、貰った人がどう使えるかってことを全然考えてないなって気がしますよね。このなかで完結しちゃっていて流通した後のことを考えてない。だからグラフィックとしては完成されてますけど、編集者的、プロデュース的視点は皆無。僕だったらこんなものより、同じような値段でできるティッシュをつくって配りますよ。

広島市現代美術館「HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン」

都築氏は10年に広島市現代美術館で開催した特別展「HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン」で、本当にチラシの代わりにティッシュを作成し、美術館スタッフに手配りさせています。ポスターは広島の名物ホームレス「広島太郎さん」をフィーチャーしたもので、大きな話題となりました。

様々な意見があると思いますが、宣伝美術に関するワークショップやパネルディスカッションを開催する際は、『SPT08』をテキストにするのがよいと思います。出席者全員が先にこれを読んでおき、知識レベルを合わせた上で課題を議論すべきです。世の中には、出席者の知識レベルを合わせるだけで時間を費やしてしまい、そこから先の議論に踏み込めないイベントが多すぎると思いませんか。その意味で、『SPT08』を宣伝美術を考える〈課題図書〉に指定したいです。

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