この記事は2021年2月に掲載されたものです。
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制作者・白川浩司氏がテアトル・エコー退職で『テアトロ』に寄せた名エッセイ
テアトル・エコー執行役員で演劇制作部長だった白川浩司氏が1月末で退職された。白川氏は新劇界を代表する制作者だが、小劇場演劇にも造詣が深く、その縁で私も一緒に飲ませていただいた。演劇のジャンルを軽々と超える行動力には、いつも刺激を受けていた。心からお疲れさまと言いたい。
白川氏は『テアトロ』1月号の特集「コロナ禍の中での収穫と失敗」に、「ロマンを語りたい」というエッセイを寄稿されている。「大人になるとは、白洲次郎みたいな男になることだと思っていた」で始まる文章は、軽妙な書きぶりとは裏腹に、制作者として公演再開の道筋をつくれない苦悩、氏が社会との契約書だと考えるチラシを刷れない苦悩、そして新劇の重要なパートナーである演鑑の苦悩が描かれている。
なにもしたくなくなり、アウトドアに没頭する白川氏。そんな刹那的な姿を見て、奥様が定額給付金10万円の使途を訊ねる。「コロナが落ち着いて演劇やライブが再開したら、そのチケット代に全てを充てたい。それでも構わないか」
コロナ禍で一番怖いのは不寛容になってしまった人と人との分断だ。自分のことが精一杯で、思いやりや優しさに欠ける場面に何度直面しただろうか。対話の重要性を痛感した。今こそ想像力を発揮させ、ロマンを語り合うことが一番必要で大切なことだと思う。
業界団体で理事や事務局長を務めていた白川氏の後任探しは大変だろう。新劇界、いや演劇界にとって大きな損失だ。だが、こんなエッセイを書く人なら、きっと舞台芸術の世界に戻ってきてくれるだろうとも思う。素晴らしいこの文章は、マルティン・ルターの名言で終わる。ぜひ全文に目を通していただきたい。
たとえ明日世界が滅びるとしても
今日あなたはリンゴの木を植える
白川氏の新しい道に注目している。
『テアトロ』を所蔵している東京都の区市町村立図書館(「区市町村立図書館新聞雑誌総合目録」検索結果)