この記事は2016年1月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。
ON-PAMリポート「制作者とアーティスト、その関係性の未来」は読みどころ満載、知りたかったカンパニーの台所事情も詳細に報告
舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)のアクティビティWebサイトで公開されている「【レポート】第3回テーマ委員会「制作者とアーティスト、その関係性の未来」@芸能花伝舎(東京)」は、非常に読み応えがあります。関係性を語る過程で必ず経済の話になり、各カンパニーの台所事情もわかる内容になっています。
特に、ままごとが香川・小豆島での長期滞在制作の費用をどのように工面しているのか、瀬戸内国際芸術祭からどのくらい委嘱料が出ていたのか、宮永琢生氏(ままごとプロデューサー)が詳細に明かしています。これは私もずっと疑問に思っていたことでした。
- 瀬戸内国際芸術祭2013「港の劇場2013」
芸術祭より140万円+セゾン文化財団ジュニア・フェロー2年分200万円=340万円 - アート小豆島・豊島2014「港の劇場2014」
小豆島町の予算で約250万円 - 2015年『わが星』小豆島公演
小豆島町の予算で2014年の倍(約500万円と思われる)
最初の「港の劇場2013」は、春期・夏期・秋期に渡って10週間滞在しているようですので、「3会期全部の予算として340万円?」と、司会の伊藤達哉氏(ゴーチ・ブラザーズ代表)も驚いています。
中村茜氏(プリコグ代表)は、チェルフィッチュがセゾン文化財団の芸術創造活動I(年間300万円×3年)に選ばれたとき、「私に使わせてくれ」と岡田利規氏に話し、海外展開のための営業費として資料翻訳や海外視察などに使用するなど、「助成金を担保に海外展開を考えていけたことが、今に一番つながってる大きいことだった」と語っています。
ままごともセゾン文化財団の助成金を突っ込んで、なんとか会期を通した滞在を実現したわけで、この民間助成金の果たしてきた役割を改めて実感させられるエピソードです。
偶然ですが、今回トークセッションに参加した宮永氏、中村氏、加藤弓奈氏(急な坂スタジオディレクター)とも、2006年が大きな転機になっています。10年前に転機を迎えた制作者が、10年経って着実な成果を出していることが伺える内容となっています。
長文のリポートなので、読み手によって心に響くところはいろいろあると思います。私が特に印象に残ったのは、次の部分です。
- 小豆島での活動の始まりが、「劇場に来る『お客さんの顔を見失った』という感覚」だという宮永氏の言葉。「劇場型の『観る/観られる』という関係性とはまたちょっと違う繋がりを求めてる」のが、現在のままごとなのだと納得しました。
- 中村氏の「アーティストと仕事をする時に一番考えているのは、フィフティー・フィフティーでやりたい」という発言を受けた会場の齋藤啓氏(鳥の劇場制作)による、「制作者は1人のアーティストのためにやるのではなく、その向こうにあるお客さんや、舞台芸術の全体状況も含めて考えていかなきゃいけないんじゃないか」という言葉。
- 細川展裕氏(ヴィレッヂ会長)の「劇団は『2勝1分け』を繰り返すべきで、『2勝』のうちの1つはキラーコンテンツの再演」という言葉。カンパニーが評価を得るためには秀作を3本続ける必要があると言いますが、それを具体的に噛み砕いたわかりやすい表現だと思います。
リポートは高野しのぶ氏(現代演劇ウォッチャー、「しのぶの演劇レビュー」主宰)です。