この記事は2016年4月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。

時間堂プロデューサー・大森晴香氏の「チケット予約の波を前倒すための考察」にコメントしてみる(すぐに使えるアイデア3点付き)

カテゴリー: 備忘録 オン 2016年4月10日

Pocket

「時間堂プロデューサー・大森晴香氏の『超・具体的な小劇場の課題と対策』に回答してみる」で取り上げた「公演直前あるいは初日明けないと予約が伸びない!」という課題について、大森氏が深掘りをしています。

火曜更新・時間堂、年商1億プロジェクト「チケット予約の波を前倒すための考察」

大森氏はよくある「売れ行きの波」として次の3つを挙げ、これを前倒し出来ないか、具体的に考察しています。

第一波:発売開始直後(ファン)
第二波:劇場入り前後(マジョリティ)
第三波:初日が開けてから(クチコミで判断するひとびと)

第二波に相当するのは、以前は観客自身の予定が見えてくる公演2週間前ぐらいでしたが、近年は本当に直前まで購入しない観客が増えているようで、これが実態なのでしょう。それは胃も痛くなると思います。

この第二波・第三波を前にずらすには、という発想。もしくは第一と第二、第二と第三の間でなにができるか、という発想の話だ。なんなら第0波があったら安泰。

あとは、思うようにいかなかったときの1.5や2.5の波に対する引き出しがあるかどうか。

考え方としては、これで合っていると思います。具体的な仕掛けは、過去に事例がいくらでもあります。例えば、第0波を起こしたければ、特典付きの劇団先行予約をやればいいし、1.5波を起こしたければ、ワークインプログレスをやったり、臨チラを配ればいい。

けれど、そもそも知名度が低いカンパニーがいくら仕掛けを増やしても、どれだけ効果があるのか疑問です。単なる自己満足に終わるかも知れません。そう考えると、この課題に関する本当の答えは、仕掛けを多くすること自体ではなく、その仕掛けを通じて観客に自分たちの舞台に取り組む姿勢を見せることではないかと思います。

第三波についても、一般客は開演後のクチコミだけでなく、それまでの予備知識との相乗効果で動くものです。過去公演の評価がどれだけ伝播しているかが重要なのです。若いカンパニーの宣伝内容を見ると、次回公演の内容が中心で、過去公演の評価を伝える努力が足りないと感じます。

ファンが能動的にアクセスしなければならないTogetterまとめではなく、一般客の目に自然に触れる形で、過去公演の評価を継続して発信することが重要です。どんな作品になるかわからない新作の宣伝より、そのほうがよっぽど誠実だと思いませんか。公演が迫ってから、公演に関することだけを宣伝する――そうした短絡的な方法では、第三波を前倒しすることは困難でしょう。

前売開始から公演までの期間というのは、単なるチケット販売の時間ではなく、カンパニーのポリシーを世の中に発信するステージであり、それを司るのが制作者だと感じます。制作者の最高の見せ場だと思うと、ワクワクしてきませんか。

せっかくなので、いくつか具体的なアイデアも書いておきます。実行可能な制作者の方は、すぐ取り入れてみてください。

  1. 次回公演の超先行販売を終演後のロビーでやってみる(第0波をさらに前倒し)

    これは複数のカンパニーで前例があります。観客は終演後の余韻に浸っているので、意外に売れます。会場・日時・金額さえ決まっていれば、可能でしょう。ただし、物販手数料がかかる劇場では、プレイガイド手数料より割高になる場合があるのでご注意ください。支援会員制度までは難しいが、コアなファンを囲い込む場合に有効です。

    ※クラウドファンディングを案内する手もあります。とにかく終演直後というタイミングが大切。

  2. 同一料金で一部指定席にしてみる(第一波・第二波を前倒し)

    全席自由の場合、一部でいいから指定席にしてみましょう。料金を自由席と同額にするのがポイントです。直前まで動かなかった平日のチケットも、これで動き出すはず。平日より土日から先に売れるの同じ理論で、条件が同じなら少しでも有利に思える席から売れるのです。票券管理の作業が増えますが、試す価値あり。

    ※一部指定席は前倒しを狙った奇策ではなく、入場がギリギリになる観客へのサービス向上が真の目的です。その点を強調してもいいでしょう。

  3. これはと思うコメントを厳選したカンパニー紹介チラシを配ってみる(第三波を前倒し)

    安価な1色刷りでよいので、アンケートやSNS上のコメントで第三者の琴線に触れるものを選び、本人を了解を得てチラシにしましょう。フルカラー中心になったチラシ束だと、逆に1色刷りのほうが読みたくなります。公演前の臨チラでもいいですし、公演とは無関係の時期に、カンパニー自体の紹介として折り込むのもいいでしょう。

    ※もちろん余裕があれば、過去の公演記録をまとめたデザイン性の高いリーフレットを作成すればいいと思います。なぜ、演劇人は最新作だけを宣伝したがるのでしょう。カンパニーの継続した活動を応援してもらいたいなら、過去も含めて紹介すればいいのに。

下の画像は、私が遊気舎『7144874-44 634-5789』(1995年)で作成した臨チラです。当時はワープロの切り貼りでした。東京→大阪→名古屋の3都市ツアーで、東京のアンケートでいただいた言葉を大阪向けに使いました。阪神・淡路大震災の直後で、東京ではお見舞いの言葉が多く、関西では歌舞音曲を控える風潮もありましたが、エンタテインメント性の高い作品で少しでも笑ってもらおうと、敢えてこうした内容にしました。紙がクリーム色なのは、印刷会社で余っていた書籍用紙を使ったためで、費用は最小限に抑えています(クリックで拡大)。

遊気舎『7144874-44 634-5789』臨チラ

コメントは受け付けていません。