この記事は2017年5月に掲載されたものです。
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クラウドファンディングで演劇ならではのリターンを考える――43個のアイデアを自分でダメ出ししてみた
昨年11月、映画『この世界の片隅に』のエンドロールで流れたクラウドファンディングのクレジットに感動して以来、演劇にとっての最高のリターンはなにかを考え続けています。
演劇も本番を撮影し、DVD化される際にクレジットを入れることは可能ですが、ライブこそが魅力の舞台芸術なら、もっと違う体験型のリターンがあるように感じます。
演劇ファンにとって、クラウドファンディングの最高のリターンとはなにか、昨年11月からずっと考え続けている。映画ならエンドロールにクレジットが入ることだと思うが、記録されない演劇でそれに匹敵することはなんなのか。この答えがわかれば、演劇の魅力を言語化したり創客にもつながる気がする。
— fringe (@fringejp) 2017年5月5日
アイデアを整理するため、いただいたご意見も参考にしながら思いついたものを列挙し、自分自身でダメ出ししたいと思います。公演準備の時間軸に沿って並べます。★は個人的にいいかも、と思ったものです。
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(事前準備)
- 取材ツアーに同行
作品のモチーフを実際に体験するイベントを開催。作品で描かれる業界見学ツアーや舞台となる場所を訪れる。費用は各自負担とするが、作品世界により深く触れることになる。人数が多いと対応が困難。
- 取材記録を共有★
戯曲完成までの取材ノート・資料写真等を、支援者だけにネットで公開。詳細な展開を伏せればネタバレも回避。同じ時間を過ごしながら、戯曲の完成を待つ。
- 登場人物の名前をリクエスト
自分が名付け親になるとうれしいが、数に限りがある。
- 登場人物の名前を投票
劇作家が複数案をつくり、支援者の投票で選ぶ。作品に参加した体験となる。
客演をリクエスト参考意見をもらうことは出来るが、実現困難。これはボツ。
- 再演作品をリクエスト
ファンの人気投票で再演作品を選ぶことはめずらしくない。支援者だけの投票にするか、支援者の持ち点を多くする。
- カウントダウン用カレンダー★
公演初日が決定したら、その日までをカウントダウンするカレンダーを作成して送る。日めくりでもいいし、スマホ専用アプリを開発してもいい。公演までの日数を共に過ごすことが大切。
- UNIQLOCK風カウントダウンツール
7と同様に、公演初日までのカウントダウンをするスクリーンセーバーや待ち受け画面を開発する。
- 本読みに招待★
小劇場演劇では少ないが、劇作家・演出家が意図を説明しながら俳優に戯曲を読み聞かせることを「本読み」と言う。広い稽古場を借りて支援者も同席。ネタバレを好まない場合は不参加・途中退席。
- 稽古場に出入自由
スタッフパスを発行すれば、記念品にもなる。人数が多いと対応が困難。ネタバレになる場合は予め周知。
- 稽古風景を毎回配信
支援者だけがログイン可能なシステムで毎回配信。ネタバレになる場合は予め周知。
- ワークインプログレス(公開稽古)に招待★
支援者に稽古を見てもらう回をつくる。広い稽古場が必要。ネタバレになる場合は予め周知。
- 衣裳合わせイベントに招待★
稽古後半の華である衣裳合わせを、会場を借りてファッションショー化。撮影自由にしてSNSで広めてもらう。開催費用がネック。
- トライアウト(試演会)に招待★
会場を借りて最低限の機材で試演、支援者の感想を聞く。本番に反映される可能性もあり、作品に参加した体験となる。ネタバレを好まない場合は不参加・途中退席。開催費用がネック。
スタッフ・キャストとの交流会せっかく費用をかけるなら、作品に参加した体験にしたい。ここではボツ。
- チラシにクレジット掲載★
観客にとって、最もクレジットされたいのはチラシ。本番まで形がない演劇では、チラシが心の拠りどころ。当日パンフ、有料パンフ、DVDよりチラシ。課題は印刷の締切が早いこと、人数が多い場合のスペース。
- ポスターにクレジット掲載★
いや、演劇ファンにとって、最も魅力的な媒体はチラシよりもポスターではないか。ポスター自体の制作が減っているが、だからこそ自分の名前がクレジットされた作品ポスターは、この上ない記念になる。チラシ以上にスペースの問題があるが、締切は猶予がある。支援者の心を鷲掴みにするのではないか。
- 追加ステージに充当
支援金の使途にもよるが、「クラウドファンディングによる追加ステージ」を実施。観客が増えることは支援者にも喜び。
- チケット代がクラウドファンディングによることを宣伝
映画と違い、演劇はチケット代が作品によって異なる。支援がなければ、チケット代が上がる可能性もあったはず。そう考えると、「このチケット代は支援で実現した」と訴えてもいい。ただし、演劇は元々高いと思われているため、どこまで共感してもらえるか疑問。
- ポスター・チラシの配布協力★
発想の転換で、支援者にポスター貼りやチラシ配布を依頼してしまう。受け取るだけがリターンではなく、宣伝を手伝って公演の成功に協力すること自体が体験。
- カルチベートチケットに充当★
地点や時間堂が行なってきたカルチベートチケット(誰かがが使える支払済み当日券)。作品を広める趣旨には合致している。2015年には、前川麻子氏のアンファンテリブル・プロデュースが「達成金10万円ごとに3枚の積み立て」という形でトライ。
- 支援者だけの事前入場
支援者は早めに入場し、ロビーでくつろいだり、客席で俳優のウォーミングアップを見学可能。作品世界を壊したり、プリセットの邪魔になるかも。
- 支援者だけのオリジナルチケット
悪くはないが、記念品としての要素が強いかも。
- 支援金の使途を解説したガイドブック配布★
本番前に目を通すことで、支援金が具体的にどう使われたのかがわかり、作品に参加した体験となる。支援者以外の観客全員にも配布し、支援の価値を伝える。本番前に作成するのは負荷だが、それだけの意義がある。
- 客入れの音楽をリクエスト
作品世界を壊したり、対応出来る人数が限られる。
支援者に追加の座布団元々のイスが劣悪なのが問題で、サービス格差を生むためボツ。
- 前説で観客数を発表、公式サイトやSNSにも掲載★
直接のリターンではないが、クラウドファンディングを実施した公演なら、観客数を正確に発表すべき。それが支援者への答えになる。
- 支援者は特別な場所から観劇
かぶりつき、オペ席横、ギャラリーなどからの観劇。人数が多いと対応が困難。
- 上演前後の暗転中、支援者の席をサスで抜く
指定席で事前に来場日時が判明していた場合のサプライズ。対応出来る人数が限られ、客席真上にサスペンションライトが吊れるかも疑問。27と連動するとよい。
- 客席を支援者シートに
プロスポーツの選手シートと同様に、客席を支援者によるシートと見立てる。招待席ではないが、客席に支援者の名前を貼り、支援で公演が実現したことを伝える。テプラを貼る美観の問題、支援者自身が喜ぶかが疑問。
- カーテンコールで感謝の言葉★
この公演がクラウドファンディングで実現したことを、主宰がきちんと言葉にする。受付と連携し、「この回にはXX名の支援者の方が来場されています」と紹介。
- 終演後、御礼のメッセージを投影
映画のエンドロールと同じイメージだが、作品の余韻を妨げるかも。
- 支援者だけのバックステージツアー
事前入場の逆パターン。毎回ツアーする時間が設けられるかが課題。
- 終演後、劇場外に御礼の垂れ幕
入場時になかった垂れ幕を出すことで、同じ時空を体験したと実感させるねらい。だが、これもサプライズか。
- 本番中の舞台写真が終演直後にスマホに届く★
終演直後に届けば感動も増す。来場日時に合わせたメーリングリストが必要だが、インスタ好きにはよいかも。
- 名前の書かれた大入り袋が届く★
打ち上げに参加するのは現実的ではないため、後日送付。これも記念品だが、最も演劇らしい。大入り袋そのものより渡すときの読み上げが重要なので、その音声ファイルも送付。人数が多いときは別途収録。
- 演出家使用済み戯曲(書き込み多数)の複製が届く
悪くはないが、普通にグッズとして販売すべき。
- 後日譚が収録されたDVDが届く★
後日譚自体が馴染まない場合もあるが、作品によってはマッチするかも。
- 衣装や小道具のプレゼント
対応出来る人数が限られる。本当に不要なら、ファンにオークションすればいい。
- 主役と同じ衣裳生地による小物プレゼント
生地は別途購入しておくが、加工の労力がかかる。普通にグッズとして販売すべき。
- 公演のメイキングビデオが届く★
作品本編ではなく、構想段階から打ち上げまでを追いかけたドキュメント映像。これがつくれるなら、このエンドロールにクレジットを入れる価値がある。
- 劇評・受賞をメールマガジン配信、それをまとめた冊子が1年後に届く
支援した作品が評価されるとうれしいが、評価されない場合はどうするか。費用を長期間キープする必要あり。
- スタッフ・キャストがこの作品をプロフィールに記載し続ける★
これも直接のリターンではないが、関係者がこの作品を記憶し続け、プロフィールに必ず入れてくれるとうれしいはず。
- ネット上に支援のアーカイブを保存★
意識していない支援者も多いが、これは最初から実現している。クラウドファンディングのサイト自体がアーカイブ機能を持っているからだ。『この世界の片隅に』を支援した人は、「Makuake」に記録が残り続ける。当たり前すぎてリターンに思えないかも知れないが、大切なことだと思う。
(稽古期間)
(宣伝関連)
(本番期間)
(公演終了後)
まだまだ考えます。
(2018年7月15日追記)
「ポスターにクレジット掲載」を追記して、44個になりました。