この記事は2013年6月に掲載されたものです。
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制作者なら、加藤昌史著『拍手という花束のために』は基礎知識にしておこう
先日、「映画専門大学院大学サイトがあるうちに、チャリT企画の動員を詳細に分析した木原未緒氏の論文をダウンロードしておこう」を書きましたが、その中で私は、
この規模のカンパニーで具体的な数字がここまで公表されるのは、ネット上の資料では初めてではないかと思います。
と紹介しました。つまり、ネット以外の文献では具体的な数字が公表されているものがあるのです。その筆頭が、木原氏も注釈で挙げている加藤昌史著『拍手という花束のために』(ロゼッタストーン、2005年)でしょう。
『拍手という花束のために』については、2007年にfringe blogでも紹介しましたが、エッセイ部分の多くがロゼッタストーンのサイト上で読めてしまいます。このため、別に買わなくてもよいと思われがちですが、冒頭75ページを占める書下ろし部分「キャラメルボックスが20年間続いた秘密」にリアルなデータが詰まっています。券種別動員内訳、グッズ別売上高、劇団員年齢別収入例などの初公開資料があり、ここでしか読めない内容です。
キャラメルボックスのような大きなカンパニーの事例は参考にならないと思っている制作者がいたら、大間違いです。彼らだって最初は動員722名でスタートし、様々な試行錯誤を経て現在に至っています。その過程を知ることこそが得難い知見なのに、先達の事例を研究して活かしていないケースが、演劇制作では散見されるように思います。
また、キャラメルボックスなどのエンタテインメント系カンパニーが動員至上主義だと考えて、こうした本を読まない制作者がいたとしたら、それも偏見だと思います。演劇は観客がいないと成立しない表現ですから、観客を集めたいと思う気持ちは同じはずで、その具体的な手法が違うだけの話です。動員で苦しんでいるアーティスティック系カンパニーの制作者こそ、キャラメルボックスの手法をどうアレンジ出来るのか、検討すべきだと思います。
キャラメルボックスの作品が好きかと言われると、それは人それぞれでしょう。けれど、制作者なら、過去の事例は全部頭に叩き込んでおく必要があります。過去の事例を調べない制作者を、私は不勉強だなと思うしかありません。
『拍手という花束のために』はまだ絶版になっていません。もし未読の制作者がいたら、この機会に目を通すべきと思います。