この記事は2013年6月に掲載されたものです。
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選考委員を劇作家ではなく制作者にした「第1回せんだい短編戯曲賞」は、戯曲賞における「本屋大賞」だ
「第1回せんだい短編戯曲賞」最終候補作品が発表されました。上演時間60分以内を目安とした短編が対象です。候補作品は期間限定でPDF公開されていますので、この機会にダウンロードをオススメします。
同賞最大の特徴は、戯曲賞なのに選考委員全員が制作者であることです。劇作家は一人も入っていません。これは日本初の試みではないでしょうか。
(選考委員)
小室明子氏(札幌、NPO法人コンカリーニョ)
岡田康之氏(新潟、りゅーとぴあ)
木元太郎氏(東京、こまばアゴラ劇場・アトリエ春風舎)
平松隆之氏(名古屋、うりんこ劇場)
相内唯史氏(大阪、インディペンデントシアター)
戯曲は上演されることを前提に書かれているはずです。そう考えると、その選考には演出家や制作者が関わるべきで、これは私も目から鱗でした。戯曲を独立した文学作品として評価するのなら、劇作家だけの選考でもよいと思いますが、受賞作品の上演まで企画に含まれているのなら、その戯曲を上演したいかどうかという、演出家や制作者の視点が入るべきではないでしょうか。
受賞作を上演する戯曲賞は少なくありませんが、この視点がいままで欠落していたこと自体が不思議で、この発想を具現化した同賞ディレクターの森忠治氏(トライポッド)はすごいと思います。
小説の世界では、全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」があります。本と読者を最も知る立場にいる書店員が自ら売りたい本を選ぶこの賞は、作家が選考委員になっている文学賞よりも、いまや売れ行きに影響を与えていると感じます。
もちろん、純粋に作品の完成度を追求する賞も大切だと思いますが、戯曲が上演されるためにあることを考えると、少なくとも戯曲賞においては、演出家や制作者が上演したいかどうかという観点はもっと重視されるべきではないでしょうか。
この戯曲賞をきっかけに、たくさんの劇作家が制作者/プロデューサーと出会う。
さらに戯曲が活字となって、より多くの演出家やカンパニーと出会う。
この出会いには、年齢も経験も関係ありません。
これをきっかけに、優れた上演がどこかの街で生まれる可能性にも期待します。
仙台から始まるこの新たな戯曲賞が、日本の演劇を今後支えて、変えていくような「場」になることを、
心から願います。せんだい短編戯曲賞ディレクター:森忠治(トライポッド)