この記事は2016年5月に掲載されたものです。
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演劇ファン必見、劇場イス専門メーカー・コトブキシーティングのウェブサイト。舞台芸術好きを魅了する記事満載、前川知大氏(イキウメ主宰)が「パイプイスでの上演は1時間45分が限界」と語るインタビューも

カテゴリー: 備忘録 オン 2016年5月5日

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スタジアム・大劇場から講堂・教室まで手掛ける、パブリックスペースのイス専門メーカー・コトブキシーティング株式会社のウェブサイトがとても興味深いです。

Twitter公式アカウント(@kotobukiseating)や、公式facebookを見ればわかりますが、納入事例を取材するため、広報担当の方が全国の劇場、映画館、スタジアムを回られているようです。現代演劇によく使われるホールとしては、現在下記が掲載されています。

    (オープン順)

  • 1994年10月 彩の国さいたま芸術劇場大ホール・小ホール(さいたま・与野本町)
  • 2005年10月 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール(兵庫県西宮市)
  • 2006年  5月 四国学院大学ノトススタジオ(香川県善通寺市)
  • 2010年  8月 玉川大学3号館演劇スタジオ(リニューアル)(東京都町田市)
  • 2011年  1月 KAAT神奈川芸術劇場ホール(横浜・山下町)
  • 2012年  7月 東急シアターオーブ(東京・渋谷)

日本で初めてロールバックチェアを開発したのもこの会社です。fringe blog「演劇の創客について考える/(8)劇場の劣悪な客席を敬遠する観客を呼び戻す切り札として、映画館での『上演』を真剣に考えよう」で私が絶賛した恵比寿ガーデンシネマのイスも、この会社のものでした。

コトブキシーディング「映画館のイス / TS-542545」

コトブキシーディング「映画館のイス / TS-542545」(コトブキシーティング株式会社ウェブサイトより)

「トピックス」には、製品記事に交じって関係者へのインタビューや観劇リポートもあります。広報担当の方は「舞台鑑賞が趣味」(だからこそ、この会社を選ばれたのでしょう)とのことで、中にはスーパー歌舞伎II『空ヲ刻ム者―若き仏師の物語―』(2014年)での前川知大氏(イキウメ主宰)インタビューも。観劇記録は公式facebookにも多数掲載されています。

コトブキシーティング株式会社サイト/トピックス「受け継がれるスピリットスーパー歌舞伎II(セカンド)が新橋演舞場で誕生!(2)」

前川氏は「演出家から見る劇場イスについて」も語っています。

 例えば、小劇場にありがちな、客席がパイプイスや、ベンチシートに桟敷を置いたタイプの劇場。こういった場所での上演は、1時間45分が限界だと僕は思っています。できれば1時間30分くらいに抑えたいところですね。体感として2時間ぐらいに感じてしまうと、パイプイスでは無理です。なぜなら、座っていられないお客様が出てくるからです。環境の悪い場所で長い作品をやってしまうと、どうしても注意散漫になりますよ。暗転(幕を下ろさず、舞台を一時暗くして場面転換を行うこと)になったり、最後の盛り上がり前のシーンになると、お客様がみんないっせいに座り直すこともあります。また、ギシギシッて音が響くんですよね。座り疲れちゃうんです。
 劇場が変わって、イスも変わって、快適さが変わると、演出家としても作家としても、「ここでやるなら2時間の作品がやれるな」とか考えることができるようになります。観劇には集中力が必要ですから、お客様には快適な環境で観ていただきたい。話がうまくいって、シートも快適だと、そういうことがないですから。やはり、劇場において、イスは重要ですね。

コトブキシーティング株式会社サイト/トピックス「受け継がれるスピリットスーパー歌舞伎II(セカンド)が新橋演舞場で誕生!(2)」

こうした劇場イスの専門メーカーが、パイプイスに代わる小劇場向けの高性能で安価なスタッキングチェアを開発してくれないかと思います。劇場や観客の意見も取り入れ、演劇界の推奨チェアのような位置づけにして、大量受注を前提に価格を引き下げることが出来れば、観劇環境も大きく変わるのではないでしょうか。

コトブキシーティングは1914年創業。高級敷物や家具からスタートし、旧帝大時代の東大安田講堂へ連結イスを納入したことから、全国の劇場・ホール・講堂へ広まったそうです。前述のロールバックチェアやRFP加工イスのパイオニアとなり、RFP加工技術で大阪万博「太陽の塔」の顔を製作。サントリーホール(東京・赤坂)を担当したことで、劇場イスの地位を不動のものとしました。

コトブキシーティングと聞いて最初私もピンと来なかったのですが、2010年まではコトブキで、持株会社設立に合わせて分社化しました。「イスのコトブキ」と聞けば、思い出す方も多いのではないでしょうか。インテリア好きの方ならD&DEPARTMENTの「コトブキ60」をご存知でしょう。最も身近な製品としては、RFP可能の駅ベンチが知られています。

(参考)
fringe「舞台芸術のために国や自治体は民間劇場向けのイス設置奨励補助金を」

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