この記事は2020年11月に掲載されたものです。
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社会人学生のスタッフワークを詳細に描いたコミックス、横山旬著『午後9時15分の演劇論』が期待満載の展開

カテゴリー: 備忘録 オン 2020年11月29日

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横山旬著『午後9時15分の演劇論』第1巻(ビームコミックス)が発売になりました。『月刊コミックビーム』2020年4月号から連載が始まった作品で、17年に廃止された日本唯一の美術系夜間学部、多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科をモデルに、同学科出身の横山氏が演劇の創作過程を描くものです。ここは二子玉川近くの上野毛キャンパスにあり、そのままの姿で登場しています。近所に住む私には思い出深いものがあります。

最大の特徴は、演出を主人公としたスタッフ中心に描かれた作品であることでしょう。スタッフワークの繊細な描写、専門用語の注釈は特筆されます。学生演劇が舞台ですが、美大なのでサークル活動ではなく制作発表自体が単位となり、元々スタッフ志向の学生が多いという環境がこの作品を成立させているのだと思います。最初の座組は演出以外のスタッフ全員(舞台監督、美術、照明、音響、衣裳、制作)が女性で、悩める男性演出以外みんな優秀という構図です。

さらに二部(夜間部)という世界を描くことで、座組以外やバイト先も含め、魅力あふれる社会人学生たちのキャラクターが徐々に明らかになっていき、今後の展開が楽しみになります。若者だけでなく、ちゃんと中年の学生も登場させています。美大生と言えばアーティスト志向をイメージしがちですが、二部なのでそれだけではなく、社会人としての経験もバランスされ、これから紆余曲折はあるのでしょうが、学生のレベルを遥かに超えた作品が生まれてくる予感がします。

美大を知らない方には、学内施設の充実ぶりや予算が問題にならないことも眩しく映るかも知れません。その分学費に含まれているわけで、美大への憧れも掻き立てられる内容です。もちろん就職率が低いことは作中でも語られ、主人公が公演を観に来た高校生に対し、心の中で「せめて専門学校にしとけッ! 美大生なんて社会のゴミだぞ!?」とつぶやいています。表現に取り組む熱い思いと、アートに対する批判精神が同居し、背景を使った遊び心満点のコマもあり、これは続きを読みたいと思わせる作品です。

ちなみに、カバーを取ったあとの表紙は、登場する戯曲の台本に演出メモが書き込まれたものになっています。

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