2021年に発行された最も注目すべき演劇専門書『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』

カテゴリー: 備忘録 オン 2021年12月20日

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2021年に発行された最も注目すべき演劇専門書として、ケイティ・ミッチェル著、亘理裕子訳『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)を挙げたいと思います。

ケイティ・ミッチェル氏はヨーロッパを代表する現代演劇の第一人者で、古典から現代の戯曲、オペラの演出を多数手掛けています。原著『THE DIRECTOR’S CRAFT : A Handbook for the Theatre』は2009年に出版され、翻訳が待たれていました。

クリエイションの準備段階から公演までを13の章に分け(残り1章はスキルの習得方法)、演出家の仕事を詳細に解説しています。創作過程で演出家がなにを考え、どう行動しているのかが、手に取るように伝わってきます。時間と費用をかけられる商業演劇の現場を前提に書かれたものなので、そのまま真似ることは出来ませんが、予算がないフリンジ向けのアドバイスも添えられています。

本書の特徴は、豊富な具体例と端的なまとめにあります。準備段階の戯曲の分析では、実際にチェーホフ『かもめ』を引用して説明し、全編に渡って節ごとのサマリー、章ごとのチェックリストが設けられています。さらに「稽古はじめの数日」の章では「俳優と仕事する際の黄金ルール12か条」が掲げられ、これは演出家でなくても全員が目を通したいものです。

演出家向けの専門書ですが、チームに対するディレクションの極意と考えれば、ビジネスの現場にも応用出来るでしょう。演出という行為の全容が言語化されているので、創作過程を知りたい観客の方にも興味深いと思いますし、制作者が得るものも大きいでしょう。「リハーサル環境の準備」の章で書かれている稽古場の選定では、こんなことが書かれていて、ハッとさせられます。

人を温かく迎え入れる稽古場環境は、俳優に少ない出演料、もしくはノーギャラで出演してもらう場合、特に真価を発揮します。予算リストのなかで稽古場の優先順位を少し上げておきます。

ケイティ・ミッチェル著、亘理裕子訳『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)p.159

本書では、日本で「ダメ出し」と言われる用語を、英語圏で使われる「ノート」にしています。演出家と俳優が対等な関係で意見交換するニュアンスを込めたもので、日本でも使われるようになってきた用語です。訳者の亘理裕子氏はあとがきで、「願わくはこれが、共同作業をする演出家と俳優・スタッフの成熟した関係性の一部として、日本でも浸透してほしいと思っています」としています。

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