『シアターアーツ』恒例「年間回顧2021」、九鬼葉子氏参加で関西情報満載、会員アンケートも読み応えあり

カテゴリー: 備忘録 オン 2022年4月24日

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毎年恒例の「年間回顧2021」を掲載しているAICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』(晩成書房)66号が届きました。会員56名から回答があり、ベスト舞台はさいたまゴールド・シアター『水の駅』でした。『シアターアーツ』はウェブサイトで劇評を随時掲載していますが、年間回顧を掲載する版だけは紙での発行を続けています。私の寄せた内容はこちらです。

今号の大きな特徴は、年間回顧座談会に関西から九鬼葉子氏が参加していることです。AI・HALLの存続問題はもちろん、関西の注目すべき作品や、特集テーマである「ジェンダーと舞台芸術」に関連した作品紹介でも、関西発の作品に触れています。2021年に印象に残った舞台として真っ先に挙げているのは、附属池田小事件をモチーフにした小原延之+T-works共同プロデュース『丈夫な教室』。AI・HALL自主企画「現代演劇レトロスペクティヴ」としては初の試みとして、小原延之氏自身が再演出しました。私も初演・再演を観逃がした者として、これだけは絶対に観なければいけないと思い、緊急事態宣言中でしたが東京から足を運びました。九鬼氏も残念がっていますが、この作品で「現代演劇レトロスペクティヴ」は終わってしまうのでしょうか。

会員アンケートは、それぞれのコメントが読み応えあります。ここにご自身の名前が登場していることを知らない演劇人も多いのではないでしょうか。短い文章ですが、紙で出版されている演劇批評誌での紹介です。ぜひチェックして、演劇専門誌への掲載実績にしてください。

中でも私の印象に残ったのは、高野しのぶ氏のPLAY/GROUND Creation『Navy Pier 埠頭にて』に関するコメント。私が日本劇団協議会機関誌『join』アンケート特集「私が選ぶベストワン2021」のノンジャンルに挙げた作品ですが、年末の公演で触れる方が少ないのを残念に思っていました。井上裕朗氏と池内美奈子氏がトリプルキャストの翻訳・演出を分担した作品で、そのうちの「Side-C」に触れています。新国立劇場演劇研修所をずっと紹介してきた高野氏の17年間の活動と重なる内容でした。

翻訳・演出の池内美奈子氏とムーヴメント・ダイレクターの木村早智氏は新国立劇場演劇研修所の開所時(二〇〇五年)から同所で教鞭を執ってきた俳優指導者だ。それぞれに自律した出演者四人(渋谷謙人、万里紗、八幡みゆき、林田航平)が積極的に関わり合い、交流は鮮烈で語りに説得力もあった。私が観たい舞台を目の前で生み出すのは劇作家や演出家ではなく、俳優だと気づいてから約一七年。俳優養成に注目してきた歳月が報われた思いがした。

AICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』66号「2021AICT会員アンケート」p.41(晩成書房、2022年)

一方で、「演劇と時間は不倶戴天の敵同士だ」として、年間ベストを選ぶことは無粋な「反・演劇的行為」とした日比野啓氏のコメントも、日比野氏らしくて痺れました。

今号では特集テーマに関連した「ジェンダーに関わるベスト舞台」のアンケート結果も掲載され、会員49名から回答がありました。こちらはダムタイプ『S/N』(1994年初演)が最多の結果でした。

冒頭の座談会に戻りますが、大阪芸術大学短期大学部教授である九鬼氏は、学生と接していてジェンダーに対する意識が年単位で急速に変わっていることを挙げています。このアップデートはつくり手だけではなく、批評をする側にも求められるでしょう。私自身も意識したいと思います。

トランスジェンダーに至っては、つい二、三年前に創作された演劇作品であっても、今年の学生にとっては時代劇に映っています。「昔はトランスジェンダーって差別されたんですか? 何でですか?」って問われるほどです。作り手も、日々急激に変化する時代を常に意識していなければいけないと思います。二、三年前の取材だけで、その情報収集の更新をしていない作家が描くと、すぐばれると思います。

AICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』66号「座談会 年間回顧2021」pp.16~17(晩成書房、2022年)

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