この記事は2020年8月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。
小劇場運営の舞台裏を赤裸々に綴る『芝居小屋戦記――神戸三宮シアター・エートーの奇跡と軌跡』
2017年4月にオープンしたキャパ100名の小劇場、神戸三宮シアター・エートー(神戸・三宮)の開業準備から現在までを描いた菱田信也著『芝居小屋戦記――神戸三宮シアター・エートーの奇跡と軌跡』(苦楽堂)が、今年4月に出版されました。近松門左衛門賞や読売文学賞で知られる劇作家・演出家の菱田氏が芸術監督を務め、大阪芸術大学舞台芸術学科の拠点だった「A棟」をモチーフにした劇場です。
開館を伝える新聞記事を目にしたときから、都心によくこれだけの劇場を新築出来るなと思っていましたが、そのバックボーンや経営の実態、劇場共催公演の具体的な予算収支表も掲載し、すべてをさらけ出す内容はキャラメルボックス製作総指揮だった加藤昌史著『拍手という花束のために』を彷彿させます。菱田氏だけの回想録ではなく、オーナー、支配人、事務長、設計会社、地元の不動産屋やビルオーナーとの対談を交え、様々な視点から劇場の個性を伝えていきます。
民間小劇場ながら自主プロデュース公演中心で、様々なこだわりがある設備と運営。地元愛だけでなく、関西に多い劇場の管理人件費にも苦言を呈し、神戸という土地についても客観的に持論を展開しています。パトロンに恵まれたとしても、もちろん経営が苦しいのは同じで、空いている平日を埋めるため、タッパの高さ(天井トラスまで4m)を活かしてドローンスクールを始めるエピソードには膝を打ちました。まさに走りながら考えている劇場の奮戦記で、ありそうでなかった演劇書だと思います。
本日現在、「honto」では定価で購入可能です。