この記事は2015年4月に掲載されたものです。
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伝説の劇場スタッフ養成講座「新潟市劇場芸術講座(N-PAC Workshop)」のシラバスを記録する
問題。日本の公共ホールがこれまで開催した一般対象の劇場スタッフ養成講座で、圧倒的なカリキュラムによってジャンル横断の人材育成を行なった記念碑的な存在と言えばなんでしょう。
答え。それは新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)の開館準備事業として1994年9月~97年3月の2年半に渡って開催された「新潟市劇場芸術講座(N-PAC Workshop)」でしょう。
アーツマネジメントの講座は当時から存在しましたが、N-PAC Workshopは「ディレクターもプロデューサーもスタッフを経た上での経験職」との考えに立ち、劇場、能楽堂、コンサートホールを持つりゅーとぴあに必要な劇場スタッフとして、ジャンルをクロスオーバー出来る人材育成を掲げました。能楽堂があるため、伝統芸能分野の講座もふんだんに盛り込まれ、20年を経た現在でも、これほどジャンル横断の内容は見たことがありません。
講座は毎月2日間(土日連続)開催され、全国から応募した271名から60名が選ばれました。うち約3割は新潟県外からの受講者だったそうです。*1 毎月新潟通いをしてでも受講したいと思わせるほど、魅力的な内容だったのです。
N-PAC Workshopは、講座内容すべての出版化が予定されていました。残念ながら1巻(94年9月~12月分)だけで中断してしまいましたが、もし完結していたら、その後のスタッフ養成講座やアーツマネジメント講座に大きな影響を与えていたと思います。『スーパースタッフ アート・マネジメントの現場 ドキュメントN-PAC Workshop』Vol.1(ペヨトル工房、1995年)がそれです。
この記念碑的なN-PAC Workshopのシラバスがネット上に残っていないため、再現したものが下記になります。東京での劇場機構見学、合宿、卒業制作公演も含まれており、受講者以外も聴講可能な公開講座も適時設けられています。美術系の講座が複数含まれているのは、舞台芸術と美術は近づいていて、例えば劇場での美術展がいつ行なわれても不思議ではないとの考えからです。
《1994年度》
月 | 講義テーマ | 講師 |
9月 | 歌舞伎の裏方 狂言作者の仕事 | 竹柴源一(歌舞伎狂言作者) |
ピアノの調律 | 村上輝久(ピアノ調律師) | |
10月 | 舞台監督(バレエ) | 田中英世(舞台監督) |
ステージマネージャーの仕事 | 上原正二(サントリーホール・ステージマネージャー) | |
11月 | 舞台美術とスタッフ | 毛利臣男(舞台美術家) |
衣装制作の現場 | 桜井久美(衣装デザイナー) | |
12月 | テクニカル・ディレクターの仕事 | 小栗哲家(舞台監督) |
芸術と社会 | 畑祥男(成安造形大学助教授) | |
1月 | 劇場機構見学(国立劇場) | 竹柴源一(歌舞伎狂言作者) |
劇場機構見学(湘南台文化センター) | 花光潤子(魁文舎代表、演劇プロデューサー) | |
2月 | 演劇史 | 大笹吉雄(演劇評論家) |
音楽会と音楽ホールの社会史 | 松本彰(新潟大学教授) | |
3月 | 音響設計実習 | 清水寧(ヤマハ(株)音響研究所) |
舞台照明実習 | 坂本理人(照明家) |
《1995年度》
月 | 講義テーマ | 講師 |
4月 | レセプショニストの仕事 | 伊藤せい子(サントリーパブリシティサービス) |
ホール制作について | 花光潤子(魁文舎代表、演劇プロデューサー) | |
5月 | N-PACコンサートホール | 長谷川逸子(設計者) 奥村和雄(ヴァイオリニスト)他 |
ボランティア | 金子郁容(慶応義塾大学教授) | |
6月 | 市民活動 | 細井綾子(蔵の街音楽祭実行委員長)他 |
地域性と公共施設ネットワーク | 田中勝美(茨城大学地域総合研究所)他 | |
7月 | What a producer does[公開講座] | 萩元晴彦(カザルスホール総合プロデューサー) |
美術と行政と市民[公開講座] | 平野昭彦(いわき市立美術館)他 | |
8月 | 大道具 | 神谷卓夫(俳優座劇場) |
舞台の作り方 | 竹柴源一(歌舞伎狂言作者) | |
9月 | 舞台の作り方 「白波五人男稲瀬川勢揃いの場」の製作、上演[合宿] |
竹柴源一(歌舞伎狂言作者) 尾上辰夫(歌舞伎役者) |
10月 | アート・舞台の制作現場 | 木幡和枝(アートキャンプ白州事務局長) |
ビデオ | 荒木隆雄(ビデオカメラマン) | |
11月 | ポスターチラシ配付 | さすがわささめ(ポスターハリスカンパニー) |
広報宣伝 | 長井八美(企画制作プロデューサー) | |
12月 | ワークショップ実習 ワークショップとは[公開講座] |
佐藤信(劇作家・演出家) |
1月 | 小道具 | 湯川弘明(藤浪小道具) |
能 | 浅見真州(能楽師) 松岡心平(東京大学助教授) |
|
2月 | コンサートホールの企画・運営 | 間宮芳生(静岡音楽館館長) |
コンサートの制作 | 滝淳(東京コンサーツ代表) | |
3月 | 舞台機構 | 田中英世(舞台監督) |
音響(ダンス・演劇) | 市来邦比古(音響家) |
《1996年度》
月 | 講義テーマ | 講師 |
4月 | 音楽著作権 | 仲川眞児(日本音楽著作権協会支部長) |
ライブラリアン/楽譜の管理学 | 右田映二(N響事務局チーフディレクター) | |
劇場工学、建物の管理・安全 | 藤本久徳(劇場工学研究所所長) | |
5月 | 卒業制作公演 制作実習 | 田村光男(イベント・音楽プロデューサー) |
6月 | 文化施設の情報化とコンピューターシステム | 桝井喜孝(ミュージアム工学研究所所長) |
文化事業と社会経済[公開講座] | 米倉誠一郎(一橋大学商学部教授) | |
7月 | Brooklyn Academy of Musicについて | Mr.Melillo(BAMプロデューシング・ディレクター) 木幡和枝(アートキャンプ白州事務局長) |
地方公共劇場の課題と現代演劇の現在 | 扇田昭彦(演劇評論家) | |
8月 | メディアアートの展望 | 月尾嘉男(東京大学工学部教授) |
伝統芸能(その発展と新たな展開) | 観世栄夫(能楽師) | |
9月 | 公共ホールのアート計画 | 逢坂恵理子(水戸芸術館学芸員) |
演劇企画とワークショップ | 平田オリザ(劇作家・演出家) | |
10月 | 演劇における企画制作 | 笹部博司(演劇プロデューサー) |
狂言:現代における伝統芸能 | 土屋恵一郎(明治大学教授) 野村萬斎(狂言師) |
|
11月 | 劇場論・身体論 | 田中泯(舞踊家) |
12月 | サントリーホールの企画制作 | 岸田生郎(サントリーホール企画制作部長) |
アジアの中の日本音楽[公開講座] | 荻美津夫(新潟大学人文学部教授) | |
1月 | 音楽の企画制作:N-PAC運営 | 森千二(音楽プロデューサー) |
パフォーマンスの科学 | 大橋力(千葉工業大学情報工学科教授) | |
2月 | 卒業制作公演「をどり“衝動”」 | 田村光男(イベント・音楽プロデューサー) |
3月 | 地域のおける演劇の企画制作とワークショップの展開 | 松本修(MODE主宰) |
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- 太下義之著「地方自治体におけるアートマネジメント教育」『ARTS POLICY & MANAGEMENT』4号(1997年、三菱UFJリサーチ&コンサルティング) [↩]