この記事は2016年10月に掲載されたものです。
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『ヨーロッパ企画の本』が素晴らしいのは、ちゃんと公演リーフレットを挟み込んでいること。せっかくのタッチポイントを逃すな

カテゴリー: 備忘録 オン 2016年10月9日

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ミシマ社編『ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。』(ミシマ社)で注目すべきは、全国ツアー中の『来てけつかるべき新世界』を宣伝するリーフレットが挟み込まれていることです。もちろん、異色カンパニーの全容を紹介する書籍として興味深いのですが、制作的にはこのリーフレットが重要です。よく文庫本に挟み込まれている往復はがきと同じサイズのリーフレットで、開くと全国ツアーの日程と問い合わせ先が紹介されています。

ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』リーフレット(表面)
ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』リーフレット(中面)

ヨーロッパ企画の本なのだから、そんなの当たり前と思うかも知れませんが、小劇場関係者の本が出版されるとき、こうした公演案内を別刷で入れるところはまずありません。書店で書籍を手に取る――という新たなタッチポイントで演劇の宣伝が出来るのですから、これを利用しない手はないと思います。リーフレット自体はカンパニーが用意しなければいけないと思いますが、書籍の初刷は数千部だと思いますので、大きな負担ではないはずです。

劇作家が小説や戯曲を出すとき、俳優がエッセイを出すとき、制作者がマネジメント関連書を出すとき、版元に頼んで公演リーフレットを挟み込んでもらうべき、というのが私の持論です。直近で公演がないのなら、カンパニーの紹介リーフレットでもいいし、しおりやポストカードでもいい。書籍+αで覚えてもらうのです。fringe blog「小説を出版する劇作家たちへ」でも書きましたが、小説ならあとがきを付けて、演劇の魅力を語ってほしいのです。

書籍を出せるということは、土台に小劇場演劇での活躍があったからこそで、だったら小劇場演劇をもっと紹介してもらいたい。本人は演劇と書籍を別の表現だと思っているかも知れませんが、そもそも知られていない小劇場演劇なのだから、あらゆる手段を使って広めないといけないのではありませんか。

映画やテレビドラマでさえ、公開や放送前には俳優たちがワイドショーやバラエティ番組を行脚して宣伝します。好きでやっているわけではないと思いますが、確実に動員につながるからです。出版という機会を利用するのも同じことです。新しい客層を求めているのなら、出版は宣伝の機会だと心掛けてください。

fringe blog「小説を出版する劇作家たちへ」は、能天気な『ユリイカ』の特集にうんざりし、2007年に書いた文章です。あらから9年経ちましたが、実態はなにも変わっていないと思います。才能ある演劇人が演劇で食べていける世の中になるよう、それぞれがそれぞれの立場で、出来ることを実行していただきたいと思うばかりです。

ヨーロッパ企画の本 我々、こういうものです。
ミシマ社 編
ミシマ社
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