この記事は2016年4月に掲載されたものです。
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「面白い演劇をやってればお客さんが来るって本当ですか?」について考える
時間堂の俳優・ヒザイミズキ氏の問い掛けです。
ヒザイミズキの、日々の旅。「面白い演劇をやってればお客さんが来るって本当ですか?」
東京を本拠地にするカンパニーなら、観劇人口が多いので、その魅力をきちんと広めることが出来れば一定の観客は来るでしょう。ですから、
面白い演劇をやっていることが広まればお客さんが来る
と私は信じています。そうでないと、もっ条件の厳しい地域のカンパニーはどうなるのかと思います。
しかし、ヒザイ氏も書いているとおり、広めることは簡単ではありません。演劇という表現は、芸術と興行が不可分の関係にあり、興行という専門性の高い領域を未経験者が担わなければならないことが原因です。
他ジャンルの場合、アマチュアは発表までを自分たちでやるわけですが、認められるに従って、その領域を業界のプロフェッショナルが担っていきます。演劇、特に小劇場系カンパニーの場合は、プロフェッショナルに外注する費用がないため、劇団員である制作者が自ら研鑽して専門性を高めていく必要があります。
一人の制作者が芸術面と興行面の両方を見るのは大変で、適性もあるでしょう。夏井孝裕氏(reset-N主宰)がフランスと比較していますが、興行面を分担する劇場がもっとあってもいいかも知れません。関西だと貸館でも「提携公演」という名称で、これに近いサポートがあります。ただし弊害もあり、関西は提携公演が増えすぎて、東京のように制作者が育ちませんでした。そのバランスが重要だと思います。
日本のほとんどの劇場とフランスのテアトルは、お客さんにとっては同じだけれどもやる側にとっては全く違う場所なんですよね。使用料を払って場所と機材を貸してもらって、あとは宣伝も票券もスタッフの雇用も全部自力でやるのが日本スタイル。これが当たり前だとは今の僕には到底思えないのです。
— 夏井孝裕 NATSUI Takahiro (@futodoki) 2016年4月8日
日本の小劇場系カンパニーは、(興行面の手配が常に先行するので)芸術面で成長するスピード以上に制作者が成長しなければならず、ここが大きな分岐点になっています。基本的な制作ノウハウを共有し、地域差なくアーティストが競い合う環境を願ってつくったのが、fringeというサイトなのです。
「面白い」という言葉についても、少し触れたいと思います。
当然ですが、「面白い」かどうかを決めるのは観客です。観客の嗜好も多様化し、演劇以外にも「面白い」ものはたくさんあります。貴重な時間とお金をなにに割くか、その取捨選択になっています。コンスタントに「面白い」という評価を得ていくのは、本当に大変だと思います。
小劇場系カンパニーの場合、「面白い」というより、「そのカンパニーと共に人生を歩んでいく」という感覚にさせるのが、究極の目標、理想の関係ではないかと考えます。公演で時空を共有しながら、カンパニーと観客が互いの生存確認をする――そういう感覚が記憶に残る歴代のカンパニーにはありました。作品の当たりハズレはあるけれど、そのカンパニーを観ることで、同時代を生きるパワーをもらっていたと思います。自分にとって、そんな存在だと思われるアーティストを、観客は大切にするものです。
だから、私はこう言いたい。
共に歩める演劇をやっていることが広まればお客さんが来る